第一章

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――源、で思い浮かぶのはやっぱり鎌倉じゃ。 昔、日本で初めて幕府を開いた源頼朝。 その名は鎌倉幕府。 しかし今の時代、源家は表舞台には出てきていない。 「おぬし…何が目的かわしに」 「信長殿にお話しします」 秀吉の言葉を実政は遮りすっぱりと断った。 存外に話す必要はないと言われ、秀吉は警戒心を募らせつつも、たどり着いた目的の部屋の前に立ち止まった。 「信長様、つれてきました」 秀吉の声が聞こえてくると、部屋の中にいた一同はぴたりと話すのをやめた。 信長の「入れ」という言葉に扉へ視線が集中する。 利家が扉を開けると、秀吉が脇へよけ、一人の人物が入室してきた。 全員の視線に動揺したりすることなく、その人物はゆっくりと歩みを進ませる。 ――『黒衣の妖』。 誰もが視線を険しくする中、ただ一人、光秀だけは疑わしげに表情を歪ませた。 確かに姿格好からすれば、聞いたかぎり『黒衣の妖』。 しかし、首にかけられているという『呪具』が見つからない。 ――何故、首にかけていない。 人物――実政は、信長の前まで歩みを進ませてくると、ゆっくりと膝を折りその場へ座り込んだ。 「お初にお目にかかる。私は源実政と申します」 ざわり、と動揺が起こった。 がたんっと勢いよく信長の背後に控えていた小姓、森蘭丸は「無礼者!!」と立ち上がった。 それに続いて勝家や長秀、秀吉らも立ち上がる。 それを、一つの静かな手が挙がりさえぎる。 信長である。 一同らは暫く躊躇うようなそぶりを見せるも、ゆっくりと座りだす。 最後まで渋っていた蘭丸も、「お蘭」と信長に悟られれば渋々と座った。
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