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それを拾って、役立てようと、
僕は思ったわけでもないが。
なぜだかそれを捨てるに忍びず、
僕はそれを、スーツのポケットに入れた。
「お兄ちゃん―――なんで、助けてくれなかったの?」
か細い声で妹が言う。
「目の前で私が、たった1人の家族が助けを求めてるのに、なんで―――」
僕は答えない。妹を見つめるだけ。
「ねぇ、なんでよ? ねぇ、お兄ちゃんてば!」
ぼろぼろと大粒の涙を落としながら、僕の両腕を握りしめる妹。
僕は答えない。妹を見つめるだけ。
「あんな、ひとだなんて、」
妹の周りはひどく濡れていた。
赤い絨毯が、ところどころ深紅色に変わっていた。
「お兄ちゃん、助けてよ」
僕は答えない。妹を見つめるだけ。
抱きついてくる妹を放り、僕は立ち上がる。
倒れた妹のブレザーのポケットから、ころりと何かが落ちた。
金色の、学生服のボタンだった。
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