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それを拾って、役立てようと、僕は思ったわけでもないが。
月に向かってそれは放れず。
浪に向かってそれは放れず。
僕はそれを、スーツのポケットに入れた。
僕は孤独になった。好んで孤独になった。
―――はずだった。
「お兄ちゃん、ただいま」
仕事が終わって帰宅すると、家の前に妹がいた。
「おかえり」
正直かなり驚いているが、平静を装う。
「お兄ちゃんに見せるのは初めてだっけ。どう? 似合ってるかな、この制服」
そういえばまだ高校生だったのか。
「似合ってるよ」
家の鍵を開けて入ると、当然のように妹も入ってきた。まぁいいだろう。
「あのね―――契約が切れたの」
「うん」
「だから、帰ってきたの」
「うん」
「だから、また、一緒に、暮らしてもいい?」
「いいよ」
「ほんとに?」
「だからいいよって」
抱きついてくる妹を放り、僕は夕飯の支度をする。
倒れた妹のブレザーのポケットから、ころりと何かが落ちた。
金色の、学生服のボタンだった。
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