一つのメルヘン

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  さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、   淡い、それでいてくっきりとした   影を落としているのでした。  「あっ」  その影がきれいで。河原に映える陽よりもきれいで。  息をのみ、羽を休める蝶を見つめる。黒い縁、淡い蒼。  洗練されたその動きは可憐だが、どうして、しなやかな兄の動きを連想させる。  あぁ、私もついに病んできたかなー。  「起きろ。朝だぞ」  「―――知ってるよ」  いつの間にか兄は私の上で汗をかいていた。夢と現実ってつながってるんだ。  「今日で終わりだ。実の兄のところへ帰れ」  そう言って兄はそのまま浴室へ向かう。私はそのまま布団にくるまる。  え、帰れって? 今日で、終わり?  疑問を抱えたまま、兄の後にシャワーを浴び、朝食の席に着く。  「帰るってどこに?」  「自分の家だろ。もう3年も帰ってないと、忘れたか?」  「ううん、覚えてるけど―――」  そっか。そんな契約とかなんとか言ってたっけな。  「え、でもお兄ちゃんはどうするの?」  「もうその呼び方いいよ、前みたいに―――『秋先輩』って言って」  目の前の『兄』、秋先輩は、そう言いつつもちょっと寂しそうな顔をした。
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