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じいじいと蝉の鳴き声が聞こえる夏の昼下がり。舌役の下村朔之丞はぱたぱたと上衣を揺らしていた。
城内の厨房の隣、舌役の控える部屋には、彼の他にも五人の侍がいた。みな手拭いで額や首元を撫でたり、扇子で顔を扇いだりしていた。
「やあ、暑くなりましたのう」
朔之丞の隣に座る侍が話しかけてきた。しかし、朔之丞は自分に話しかけられたことに気付かず、ぼんやりと中空を見つめている。
彼の眠たげな半眼からは何の活気も見受けられない。何を考えているのかもわからない。
「ん、下村殿、無視とは冷たいですな」
「加藤、気にするな。うすのろ殿も暑さでいよいよ頭が鈍ってきてるらしい」
一番端に座る中年の侍がそう言うと、朔之丞を除いてみなが小さく笑った。
「ああ、暑い。こう暑いと西瓜が食べたくなりますな」
朔之丞がようやく口を開いた。そこで初めて、みなが笑っていることに気付く。
「はて、何か面白い話でもしてましたかな」
彼のそんな台詞に、みなの笑い声は一回り大きくなった。
「お前だ、お前」
朔之丞を“うすのろ”呼ばわりした侍が扇子で彼を指した。それでも「はあ」と呆気に取られた顔をする彼を、みな声を上げて笑い飛ばした。
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