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その子供に倫理は存在しなかった。
何十人の血を重ねたらこうなるのか。血の海の中心で、彼は静かに夜空を見上げていた。
両手を血に染めて、けれど、悪意も全く持たなかった。
「やあ、キミは私を殺さないのかね?」
屋敷の中から阿鼻叫喚の様子は届いてはいたが、それは彼が動く理由にはならなかった。
「指示は此処から中に入ろうとする者の排除。出ようとする者への指示は来ていない」
彼に自分の意思など存在しなかった。
「キミに命令する人物は、もう一人もいないよ。全て私が殺した」
「そうか」
「怒らないのかい?」
「なぜ」
問いに問いで返しながらも、その灰色の瞳には一切の感情が浮かんでいない。
「死なない人間は一人もいないのに」
無表情のまま、視線を空へ向ける。
「キミはこれからどうするんだい?」
「もう少し空を見ている」
「そうか」
男は子供の横に腰掛け、同じ様に空を見上げた。
月は雲に隠れ、星の一つも見えない、真っ黒な夜空だった。
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