北川健人

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「先行ってて」と2人に告げると2人は“オッケ”と答えた。 須藤は俺がドアまで来たのを確認すると三秒程俺を睨みつけ、ニコッと微笑むと背を向け歩き始めた。 階段を上り右に曲がると五十メートルはあるだろう廊下をゆっくりと歩く。須藤は後ろで手を組み、足を前に勢い良く蹴りだし、膝を曲げないで歩いている。まるでどこぞの兵隊のようだ。履き潰しているローファーの踵の部分がパカパカと悲鳴を上げている。 俺はそれに合わせて無意識にリズムをとった。軽く目を閉じるとそこはステージ、赤や黄色や白といった派手な照明が照らす中スネアが四回叩かれたと同時に、エレキの甲高い音が頭のてっぺんからつま先まで激しく鳴り響いた。心を揺さぶる声が俺の心臓を直接叩いた。心臓から飛び出した血は全身を巡り、体中をノックする。 血のたぎるライブは勢い良く開けられた職員室のドアの音にかき消された。一気に現実に戻された怒りで須藤を睨みつけたが、すぐに須藤の不敵な笑みに目を丸くした。
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