42人が本棚に入れています
本棚に追加
ここまでの道のりと同じくゆったりとした歩みは、今の屍鬼との戦いなどなかったかのように。
散歩そのものの足取りで社の前までたどり着く。
境内の中央まで来ると十夜は立ち止まり、社に向けて困ったような笑みを向けた。
「ずいぶんと手荒い歓迎だね。特別ゲストまで用意してくれているとは思わなかったよ」
視線が向けられたのは社の片隅。
柱に背を預けて立つ一人の青年だった。
180cmほどの身長を誇る十夜よりも、さらに数cm背が高い。
短めに刈り込んだ黒髪はツンツンと立てられ、精悍な印象を与える。が、その肌は白く顔立ちも整っており、長髪にしても違和感なく似合うだろう。
ただでさえ目立つ容姿の中でも、ひときわ眼を惹くものがある。
まなじりのすっきりとした眼に宿る瞳が宿す、深い泉のような碧(あお)。
それは、ともすれば触れたものを凍らせてしまう冷たさを思わせ、それでも触れずにはいられない魅力を放っていた。
その瞳でまっすぐに十夜を射いたまま、彼は言う。
「あの程度でてこずるようなタマかよ。それに――」
柱から身を起こし、ゆっくりと十夜に向き直る。
「俺だってここに来るまでに一体相手してきたんだ。五分五分だろ」
「そうなんだ。ならそういうことにしておこうか」
「つか、久々に合って挨拶もなしに文句かよ」
「ん? ああ、そういえば。久しぶりだね、玲音(れおん)」
冗談ではなく本気で、今言われて思い出した様子の十夜に、玲音は苦笑するしかなかった。
「変わってねぇな、お前」
その言葉に宿る安堵の響きに、十夜も自然に口元がほころぶ。
玲音は高校時代の同級生だった。
初めて出会った時から、お互い“特殊な身の上”であることを肌で感じていた。
それが警戒・敵視する方向にではなく親近感へ結びついたのは、境遇は抜きにして二人のウマが妙に合ったからに他ならない。
「お父上は元気にしてるの?」
十夜が尋ねると、玲音はたちまち苦い表情になる。
「元気だよ。元気すぎてそれが問題なんだよ」
「……もしかして、さっきのアレと関係があると?」
玲音はうつむき、無言を返す。
それが肯定であることが十夜にはわかっていた。
最初のコメントを投稿しよう!