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繁華街から一つ道を逸れただけで、その路地は随分と寂れて見える。
ビルとビルの隙間を這う狭い路地。
点在する裏口の脇に置かれたゴミのポリバケツが、よりいっそう道幅を狭めていた。
その裏口の一つに寄りかかっている、派手な身なりの女が一人。
彼女は表の喧騒に負けないよう、大きめの声で携帯電話に向かってまくし立てていた。
「そうでしょ? やっぱりそう思うでしょう!? もう、信じらんないのよ! でね……」
内容は、自分が勤める店での常連客がいかに嫌な奴か。
いわゆる愚痴である。
ビル壁の間にのぞく表通りの喧騒を眺めながら、のべつまくなしに喋り続けている女の腕が、いきなり掴み上げられた。
「ちょっ……何――」
女の言葉は、それ以上続かなかった。
濃いアイメイクに縁取られた瞳は驚きの形に見開かれ、ゆっくりと自らの腹部へと落とされる。
淡いピンクのワンピースに、腕が一本突き立っていた。
腕とワンピースの境目から、赤黒い色がゆっくりと広がっていく。
ずちゃり
生々しい音と共に腕が引き抜かれる。
女の身体は、裏口の扉に寄りかかったままずるずると座り込んだ。
無機質なスチールの銀に、赤く擦れた色が残る。
力無く垂れ下がる手に握られたままの携帯電話から、相手の呼びかける声が空しく響く。
眼を見開いたまま、既にまばたき一つしない女の前には、一人の男が立っていた。
男は赤い液体の絡みつくむき出しの腕に、無心にしゃぶりつく。
腕に付いたものすべてをなめつくすが、まだ足りないらしい。
前菜をとり終えた男は、眼の前に据えられたメインディッシュへととりかかった。
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