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四月はじめの入学式の日のこと。
市内中学生の憧れの的である泉ヶ岳高校に入学した俺は、回りからの羨望の眼差しとは裏腹に意気消沈としていた。
入学式当日の早朝に、買ったばかりのイヤホンが壊れたからというわけではない。
いや、もちろんそれも俺の気分を存分に害してくれた。
それはまごうことなき事実だ。
だが、主となる理由というのはまた他のところにある。
泉ヶ岳高校は、一つの地方につき一校だけ設けられる、国立の政令指定大学である泉ヶ岳大学の附属校だ。
学費はほとんどかからず、偏差値から見ても申し分ない。
むしろ身に余るほどのものだ。
泉ヶ岳高校に一般受験は存在せず、全面的に推薦入試のみとなっている。
その推薦も特異な体系をとっており、東北地方中の規定数以上の生徒が在籍する中学校から、泉ヶ岳高校側が好きなように生徒をかいつまんでいくような形になる。
ごく少数のスポーツ・芸術推薦枠を除いた定員の半分は単純に成績順にして、素行などに致命的な問題が見られない限り上から順番に、決められた人数の中で推薦されていく。
そして、もう半分は完全なる抽選なのだという。
というのは、つまり成績の優秀な者も、なぜ彼が、と皆が目を疑うような落ちこぼれも推薦を受ける可能性があるということだ。
俺が推薦されたのは、推薦の枠としては後者の半分だ。
どちらの枠で推薦されたかというのは生徒に知らされないことだが、俺の成績から見ればどちらの枠かは明白だった。
しかし問題なのはそこではなく、三年前に俺と同じように泉ヶ岳高校に推薦されたろくでなしの兄貴の方だ。
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