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主に鈍い痛みを帯びる頭を押さえながら立ち上がる俺に、薗嘉は大股で歩み寄り、目の前で仁王立ちする。
頭一つ以上低い所から睨まれていても、迫力は十分だった。
たった今俺を射抜かんとする目を、クラスの男子は猫のようで可愛いというが、俺には虎のそれにしか見えない。
「何で、起こさなかったのよ」
薗嘉は綺麗な顔に憤怒の色を滲ませて、低く唸り声を出した。
俺はお前の目覚まし係になった覚えはないのだが。
薗嘉はぷいっとそっぽを向くと、また大股で学校への道を進んでいく。
別に一緒に登校するつもりはないのか、と思い頭を押さえながらもう片方の手で汚れた制服を叩いていると、拾われずに置き去りにされた薗嘉の鞄が目に入った。
その上薗嘉が「なんで着いて来ないのよ」と睨み付けてくるもので、仕方なく鞄を拾って隣まで駆け寄る。
「俺はお前の目覚まし係じゃない」
「何よ。あたし、幼なじみのよしみで毎朝起こしてあげてるじゃないの。ギブアントテイクでしょ」
「鞄持たせるために毎朝起こしにくる奴がそれを言うか」
俺と薗嘉とは、幼稚園の頃からの仲だ。
家も隣近所で交流があった。
中学に入る頃何の前触れもなく引っ越してしまったが、稀しくも高校の入学式の日に再会を果たしたのだった。
そうか、あれから三ヶ月か、と俺は回顧する。
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