prologue

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 ただ、涙が止まらなかった。  悲しい事があったから。  そして、それはどうしようもない事だったから。  自分の無力さを、恨んだ。  この世の不条理を、憎んだ。  何度も、何度も、名前を呼んだ。  鼻を啜りながら。  声を枯らして。  あてもなく、走り続けた。  擦り切れた踵が、痛かった。  なにより心が、痛かった。  こんな痛みを、それまで僕は知らなかった。  ――そして、その場所にたどり着いていた。  祈る事しか出来なかった。  僕は弱すぎたから。  だけど、逃げ出す事も出来なかったから。 「――どうして泣いているの?」  声が聞こえた。 「大丈夫。この世界は本当は、とても優しいんだよ……」  ――雨が降り出した。  強く。  そして、優しく。  その雨は僕の涙を洗い流してくれた。
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