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「どうしてもクソもねぇヨ。ワタシがお前の妹『でも』あるから。これが答えだ」
冗談でも何でもなく、彼女は本気でそう言っている。凶悪な光を宿す深紅の瞳を見て、私はそう悟りました。
妹でもある――?
訳が分からず、困惑する私を置いて彼女は更に笑みを深めます。
「――五歳の時。親が禁止したのにも関わらず、夜中にこっそりグレープジュースを飲み干して、翌朝見事におねしょをやらかした『オネエチャン』を庇ってやったのは、一体誰かナ?」
――その瞬間、彼女以外の時が止まりました。
数秒の後――彼女が何を言ったのか、当事者故にいち早く理解した私は耳を疑います。
それは、紛れもない私の過去。それも、人には絶対に知られたくない類いのモノ。
敢えて名付けるなら、黒歴史――。
身内しか知らないはずのそれを、彼女は悠々と言ってのけたのです。
「初恋は六歳の時、相手は――」
「きゃーっ!! お願い! それだけは! それだけは止めて下さい!!」
体裁も何もあったものではなく、気がつくと私は叫びを上げていました。
それは私史上最大の黒歴史!
シエルと優男に聞かれたら、軽く昇天出来きてしまいます。ポロッと何かが抜け落ちてしまいます!!
「これで分かったカ? ワタシは、『妹の記憶』をちゃんと持ってる。だが、ワタシはワタシ。どっかの馬鹿野郎に造られ、何らかの方法で『妹の記憶』を与えられたバイオロイド。決して本物の『フィアリス・ノーマの妹』じゃなイ。それが、本物ではないが偽物でもないと言った理由ダ」
事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものです。
正直、半分も理解できませんでした。
しかし、確かに分かった事が二つ。
一つは、この少女が本物の妹ではない事。
そして――
「マ、色々やったし色々言ったが、ワタシに敵意はねぇヨ。『これからも』よろしくナ? オネエチャン?」
彼女が本物偽物以前に、一人の女の子だという事でした。
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