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【Side:El-Ciel】
ロビーから一人抜け出したシエルは、屋敷の庭先へと足を運んでいた。
昼間とは違い、所々に咲く夜光花達が闇を淡くを照らし出す。それらが相まって、花畑はどこか幻想的な雰囲気をかもし出していた。
辺りを見回し、小さく溜め息を吐くシエルに近づく影が一つ。
「いやー、すっかり仲間外れだね。何だかんだ言って仲がよくなっちゃうんだから……やっぱり似た者同士って事なのかな?」
軽薄な声と共に姿を現したのは、ロニキア。月の光にも似た淡い金髪をかきあげながら、シエルの隣に並ぶ。
「……何でついて来たんですか?」
視線を前に向けたまま、シエルが口を開いた。その表情には、先程までの何処か頼りない雰囲気は微塵もなく、研ぎ澄まされた刃のような鋭利さを宿している。
「冷たいねー。君こそいいのかい、彼女の傍にいないで? ノアは基本凶暴だから、またいつ暴走するやら」
「その時は楽でいいです、容赦しなくて済むから」
何処か反応を伺うようなロニキアの言葉に、シエルが選んだ答えは偽らない事であった。それは、揺るぎない覚悟の証。
「……けれど、貴方達に敵意が無いって事くらい僕にでも分かります。それより今は――」
「害虫共を駆除するのが先だね」
シエルがデュランダルをその手に宿し、ロニキアが何処からともなく装飾ナイフを取り出す。
得物を抜き放つ二人の前――虚空の闇から滲むようにして現れたのは幾つもの影。その数およそ三十。殺していた気配を解放し、各々から放たれるのは純然たる殺気。
迎え打つは、圧倒的な二人組の威圧。
「どうでもいいけど、君急に雰囲気変わったね? 猫被ってたってやつなのかな?」
「……行くぞ」
軽口を叩くロニキアを尻目に、シエルは前進。風を切るような速度で、敵中へと斬り込む。
ロニキアは薄い笑みを浮かべて、彼に続いた――。
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