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――甲斐の国
山々に囲まれ、富士の山並みも望める地。
その地の、ある山奥。
其処には由緒正しい神社があった。
名は八雲高嶺(やくもたかね)神社。
天照大神を祀り、その御加護を欲する人達が今日もあとを断たない。
「…今日も随分多くの方々が来ているね。」
「はい、義父上。」
「これではやはり玲稟(れいりん)には此処で…。」
「いいえ。私は参ります。」
八雲高嶺神社にて巫女を務める私の名は玲稟。
境内に捨てられていた赤子だった私を、現神主である安倍光明様が育ててくださいました。
玲稟と名付けてくれたのも、もちろん義父上で。
明(中国)が大好きな義父上は其れらしい名前を付けたのだ、と胸を張って答えていたのを今も覚えています。
「だが玲稟一人に行かせるのは…!」
「大丈夫です。私には天照大神の御加護がついていますから。」
義父上を無視して私は旅支度を続ける。
「…はぁ…本当に行ってしまうのだな…。」
「…義父上、義父上だってわかっているはずです。」
部屋から参拝客を見る。
「…日に日に増える参拝客が、何を恐れているのか。」
「それは…。」
「…私にはその恐れを…悪霊や妖怪を消す力があるのです。」
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