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『ずるいってせっかく褒めてやってんのに』
「うぅ…ありがとうございます」
『おう。お礼に何かくれ』
「…わかりました。じゃあお歳暮の頃にハムでも…」
『送らなくていい!』
ハムの人になってどうすると内心突っ込んだ。
天然なのか生真面目なのか判断に苦しむ所である。
「……せんぱい」
『ん?』
「―――ありがとうございます」
すると彼は突然ニコっと笑った。
不意打ちをつかれて思わず目を見開く。
『お前な~』
それに毒気の抜けた俺は苦笑せざるを得なかった。
素直過ぎる飯坂の態度の方がずるい。
だってそんな顔を見てしまうと全てが馬鹿くさくなるからだ。
だから俺もこいつのペースにハマってしまうのかもしれない。
それに僅かな居心地の良さを感じた。
ガキの世話なんて面倒くさくてたまったもんじゃないのに。
『お礼を言うのは早いんだよ』
「え?」
『まだ髪を切っただけだろ?安心しろよ。今日一日でたっぷり変えてやるから』
まだ髪の毛をいじっただけだ。
これから眼科に行ってコンタクト買うだろ?
それから服も見立ててやらなければならない。
「はい!」
すると再び歩き出した俺に飯坂は満面の笑みを浮かべた。
そして髪の毛を隠す事もなく嬉しそうに俺の隣を歩き出す。
きっと飯坂にとっては髪型を変えるのにも勇気が必要だったのだ。
たとえ他の人にとって些細な変化でもこいつにとっては大変な事なのかもしれない。
そんな飯坂の見ている世界を知りたいと思ったんだ。
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