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『…ったく』
俺は深くため息を吐くと自転車を降りて彼に近寄った。
頭巾を被っているだけでも怪しいのに、大の字で道路に倒れているんだから手のつけようがない。
『おい。お前いつまで寝てるんだよ』
「うぅー…」
『つーかなんでそんなモン被ってんだ?』
俺は傍に自転車を止めて膝間付く。
そして強引に首根っこを掴んだ。
「梧桐先輩ひどいです~」
『ひどいのはお前の顔だよ』
飯坂はおでこにたんこぶを作っていた。
そして鼻血を垂らしている。
眼鏡が割れなかっただけラッキーなのかもしれない。
「わわわっ!見ないでくださっ」
すると俺に顔を見られまいと飯坂は慌てて顔を隠した。
それを無理やり放すとポケットティッシュを鼻に当ててやる。
『…はぁ、とりあえず行くぞ』
「え?あ…せんぱ…」
『こんな所に居たら目立ってしょうがない』
そういって飯坂のカバンを自転車の前かごに入れた。
そして自転車に跨る。
『ほら。早く乗れよ』
「え?えぇ!?」
『嫌なら先に行くぞ』
「ままま、待ってくださ・・・!!」
すると飯坂は慌てて俺の後ろに乗った。
重くなった後ろを確認すると足を放してペダルを扱ぎ始める。
飯坂は遠慮がちに俺の腰辺りを掴んだ。
「ありがとう…ございます」
『別に』
「このご恩は一生忘れません」
『おう。忘れるな』
「じゃあ先輩も忘れないで下さいね?」
『ぶはっ、なんでだよ』
「だって二人の愛のメモリーですから」
『やめろよ、気持ち悪い』
相変わらず意味の分からない事を言うから笑える。
本当に彼の言動も行動も良く分からない。
きっとクラスでも浮いてるのだろう。
それが簡単に想像できて思わず笑ってしまう。
「…ありがとうございます」
飯坂は小さな声で呟くが吹き抜ける風の音で良く聞こえなかった。
その言葉は露と消える。
代わりに背中に僅かな感触が残った。
飯坂が頭を俺の背中に預けてきたのだ。
やれやれ。
俺は心地良い背中の重みにため息を吐いてペダルを扱ぐ。
そして学校への道のりを急いだ。
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