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その後校門を通り抜け駐輪場までやってきた。
ここまでは中等部と高等部は一緒である。
しかしここから先は校舎が別。
手前が中等部で奥が高等部の校舎になっている。
『着いたぞ』
俺は自転車を止めた。
すると飯坂は黙って頷いてゆっくりと降りる。
『つーかなんでそんな格好してるわけ?』
せっかく変身したのにまったく変わってなかった。
ビン底眼鏡に頭巾まで被っている。
それでは土曜日が全て無駄だった事になるのだ。
だってこのままじゃ意味がない。
『お前あれだけカッコイイ男になりたいって言ってたくせに』
「あ…ぅ…」
『変わりたくてあんなに必死になって俺に頼んできたんだろ』
「……………」
『…なんかムカつく』
自分のプランを否定された気がした。
コイツの為に美容院を予約して、似合う服を選んでアドバイスしたのに。
また今日という日を内心楽しみにしていた自分が馬鹿馬鹿しかった。
だから面倒な事に関わるのは嫌。
自分のペースを乱れるのは嫌。
『じゃあな』
俺は前かごから自分のカバンを取ると、そのまま校舎の方に歩き出した。
飯坂は一言も口を利かず俯いている。
きっとまた泣きそうになっているに違いない。
だがどう考えたって今のは俺が正論だ。
『!?』
すると突然右足が重くなった。
それはいつかのデジャヴである。
『お前な~・・・』
見下ろせば飯坂が俺の右足にしがみ付いていた。
こないだ同様必死に掴まり離れようとしない。
『何考えてんだ!いい加減にしろ!!』
第一になぜ足に掴まるのか。
他に掴まる部分なら沢山あるはずだ。
こんな姿を他の生徒に見られれば絶対に誤解される。
『おいっ!離れろ!離れろってば』
「うぅ………」
飯坂はずっと黙っていた。
ただ俺の足にしがみ付いて離れない。
『………はぁ』
だから俺が折れるしかなかった。
こんな姿を誰にも見られたくない。
『…悪い、言い過ぎた』
俺はそう言って飯坂の頭をぶっきらぼうに撫でた。
すると彼がちらっとこちらを見上げる。
「ごめ…なさ…」
飯坂は泣く五秒前のような顔をしていた。
搾り出すような声がなんだかいたたまれない。
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