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「梧桐君かなり懐かれているんだね~」
『笑い事じゃないですよ』
「いいじゃん。最初だけここにいなよ」
『でも』
「一緒に彼に合う髪型を考えよう?」
てこでも動かない飯坂に笹島さんが気を利かせてくれた。
俺は周囲の視線に恥ずかしさを覚えつつ渋々頷く。
まるで子供のカットをさせに来ている父親みたいだ。
むしろ俺が飯坂なら逆にこんな状況恥ずかしくて耐えられない。
だが彼は俺が頷いたのを見てやっと顔を綻ばせた。
掴んでいた裾を放すと真っ直ぐに向き直す。
『はぁ……』
そんな彼を見てため息を吐いた。
すると隣でまた笹島さんが笑っている。
友好的に接しているつもりはないのになぜこんなに好かれてしまったのか。
やっぱり俺には飯坂の考えている事が理解できなかった。
―――それからある程度、髪型の話をすると俺は待合のソファに戻った。
最後まで飯坂は不安そうな顔をしたが俺は無視をした。
さすがに仕事の邪魔だったからだ。
『ふぅ……』
俺はマガジンラックに置かれた雑誌を手に取る。
そして彼のカットが終わるのをひたすら待った。
「おまたせー!」
それから暫くしてやっと笹島さんがこちらにやってきた。
後ろから下を向いた飯坂が着いて来る。
だから俺はそれに合わせて立ち上がった。
『おい』
「うぅ……」
飯坂は手で前髪を押さえていた。
そのせいで顔は元よりせっかくカットした髪の毛が見え辛い。
「ははっ。恥ずかしいのかな?」
笹島さんは奥のクローゼットから飯坂の荷物を持ってくると苦笑している。
「髪の毛の量がかなり多かったし全体的に重かったから結構梳いたよ。それから前髪も眉毛辺りまで短くしてみた」
『そうですか。』
「今は少しワックス使って毛先を遊んでるから。」
『はい。ありがとうございます』
飯坂がいつまで経っても髪型を隠すから俺は笹島さんに説明だけを受けた。
そしてそのままお会計を済ませる。
「また来てね」
そう言ってお辞儀をする笹島さんに軽く会釈をする。
そして俺と飯坂は店を後にした。
時計を見ればもう2時近い。
飯坂は未だにならんで歩こうとせず後ろから着いて来た。
『…はぁ…』
それに苛立って俺は足を止める。
「うひっ」
すると奇声を上げて飯坂が背中にぶつかった。
どうやら俺が立ち止まったのも気付かなかったみたいだ。
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