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『お前さ、何なの?』
せっかくの休日を代返して付き合ってやっているのだ。
しかも俺にしては珍しく取り繕ってやっているのに。
当の本人がこんな調子じゃたまったもんじゃない。
『おい』
だから強引に飯坂の前髪を覆っている手を引き剥がした。
掴んだ細い手首に折れてしまいそうな錯覚を覚える。
「!!」
その拍子に飯坂のしている眼鏡がずり落ちた。
するとその顔はとぼけたじいさんのようでマヌケ。
「あ――…」
だがそれを馬鹿にすることは出来なかった。
彼は顔を真っ赤にして目を泳がせている。
気付けば掴んでいる手が震えていた。
「あ、あ…おおおお、オレ…」
いつも以上に動揺を露にした彼が俯いてしまう。
『ばーか。顔上げろ』
「…っぅ…」
『誰の為に付き合ってやっているんだよ。』
「すす、すみません」
『はぁ…』
謝られても困る。
だが自信なさ気な彼の様子が全てを物語っていたのだ。
『お前、カッコイイ男になりたいんだろ?』
「…はい…」
『変わりたいんだろ?』
「…はい…」
『ならまずは下を向くな。どんなに嫌でも前だけを見てろ』
俺は彼の頬に触れると無理やり顔を上げさせた。
すると俺の言葉に息を呑んだ飯坂は下を見ないように気張る。
泣きそうな目元とのギャップが痛々しかった。
だが彼にはこれぐらいの荒治療が必要。
『……似合っているよ』
本当は『ジャニ〇ズかよ』なんて言ってからかってやる予定だった。
しかし今の彼に言うのはさすがに気が引けて、つい真面目に答えてしまう。
すると予想外だったのか飯坂は驚いた顔で俺を見ていた。
俺は空いている手で彼の髪の毛に触れる。
サラサラの黒髪にすっきりとしたショートカット。
ワックスで毛束を作り風に靡く様に遊ばれていた。
以前は眼鏡にまで掛かっていた重たい前髪が程よく梳かれて眉毛辺りまで切り揃えられている。
『お前…そういう顔をしていたんだな』
お陰で彼の顔が良く見えた。
眼鏡の奥にあった瞳はパッチリとしていて少しタレ目であった。
だから余計に幼く見えるのか。
「ああああ、あ…ぅ…」
普段から表情豊かな顔が更に激しく動き回る。
ホントに小動物みたいだ。
飯坂は慌てて片方の手でずり落ちた眼鏡をくいっと上げる。
「ごごご、梧桐先輩は…ずるいです」
『はぁ?なんだそれ』
耳まで真っ赤にしているくせに飯坂は口を尖らせていた。
その顔が変で思わず笑ってしまう。
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