その男

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「トモハルに用事があんなら、オレ、通せ」 体育館の、使われなくなったステージ横の放送室。 そこへ繋がる用具室の扉の前。 放送室の体育館内が見渡せる小窓から、2年の笹原は下の様子を見ていた。 薄茶色の錆びた鉄の引き戸の前には、それはそれは冷たい目をした男。 豊田冬次(とよたとうじ)。 喋り方もぶっきら棒で。 相手を睨みつける視線は強烈。 寝癖なのかボサボサの明るい頭と、一文字に結んだ唇。 それでいて、本当に凶暴なのだから。 せっかくのキレイな顔が台無しだと笹原智晴(ささはらともはる)は思っていた。 同じように小窓から下を覗く、西哲人(にしてつひと)。 タバコを唇から離すと、窓から顔を背け煙を吐き出した。 ため息に似たように、はぁっと。 用事があってきたのは3年らしい。 見たことがある。 先週か、その前の週か。 殴った記憶が笹原にはあった。 3年が体育館の、剥げた床に突っ伏したのは数分後だった。
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