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夢【きみのゆめ】
違和感だらけなのだ。
頭蓋にめり込ませるべきであろう指は柔らかな髪を撫で、関節技をきめるべきであろう腕は細い腰を抱いている。
常ならば我が拝の責め苦にぎゃあぎゃあと忙しない声をあげるだけの人の子は、黙し、恍惚とした女の表情で腕の中に収まっていた。
「…ヤコ」
名を呼べば熱を孕んだような濡れた瞳で一瞬見上げ。
薄く笑って、我が拝の胸につっぷする。
猫のように頬をすり寄せる姿に垣間見る、従順たる奴隷の正しき姿。
それを撫でてやる我が輩は、さしずめ優しき主人といった所だろうか。
しかし…
今ここに存在する空気が主従のそれでない事くらいは、魔人である我が輩にでも容易に理解することが出来た。
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