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結局、それ以降彼女は喋ることはなかった。
俺は、彼女が自分からなんで泣いているのかを喋るまで、黙って待とうと思い彼女の横に座った。
ただ時間だけが過ぎていく。彼女は時々、俺が渡したハンカチで涙を拭く。
俺はひたすらに待った。
陽も傾き、夕暮れが眩しく輝く頃。ようやく、隣の少女が再び口を開いた。
「パパが……いなくなったの」
「……うん」
もはや諦めかけていた。が、急に彼女が口を開いたことに驚き、俺はそんな返事しかできなかった。
「ママが、パパはてんごくに行くんだ……って言ってた」
「うん」
「もう……パパには会えないんだって」
「……うん」
子どもに人の死を理解しろなんて、小学二、三年生にだって難しい。
いくら綾香が頭がいいと言っても、その時、俺らはまだ四歳の少年と少女だった。
でも、会えない。それくらいは理解出来る。自分の父親との永遠の別れ。
それを綾香は悲しんで泣いていたんだろう。
その言葉を最後に、彼女はまた黙り込む。
なんだか、空気が気まずくて、俺は彼女に質問してみた。
「お父さんのこと……好きだったの?」
「……うん」
その言葉を聞いて、俺はまた頭を必死に回した。
とにかく、俺はまだ名前も知らない彼女の笑顔が見たかった。
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