ハイカラな服を纏い高らかに笑う墓前

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前々から大嫌いでいつも殺してやりたいと思っていたあの男が死んだと聞いて慌てて墓をまいることにした。もちろんその死を悼むわけじゃあなくて、ただあいつが死んだという事実を確かめ笑ってやるためだ。そんな理由だったから喪服は着ないで寧ろ派手な服を着てやった(それはきっと、葬式や何かに着て行ったらきっと遺族に刺されるような服だ) そして今、目の前にあるのは奴の名が刻まれた灰色の墓石で。あたしの身長より少しだけ低くなったソレはあんまりにも無様でもうその時点であたしは顔がにやけていた。たぶん、傍から見たら恋人を失った悲しさで狂ってしまった女か何かに見えていたと思う。だって実際全然知らない人に「……だいじょうぶですか?」とか尋ねられたし。うん、まあ確かにあたしはちょっとおかしいのかもしれないけど少なくともこいつが死んだ悲しさで狂うとかそういうんじゃあないから少しだけしおらしく「大丈夫です」と答えておいた。名も知らぬその人はあたしを憐れむような目で見て「……がんばってくださいね」と言って去って行った。人を見る目が全くないやつだ。 さて大嫌いだったやつの墓を前にして悲しむなんて言うのはよっぽどの馬鹿がすることで、あたしはとりあえずその墓を撫でてみた。冷たい。あたしより背が高かったあの男はあたしよりだいぶちいさくなってここに寝ている。なんと、無様。本当なら蹴ってやりたかったけれどとりあえず遺族に失礼だとあたしの本当にちょっとだけある良心がとめたからそれ以上墓に触れるのはやめておいた。そして、その代りにあたしは奴の墓の前で笑ってやった。 _
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