3人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
「……あっははははははははははははははははははははは!本当に死んでやんの!ばっかみたい!」
笑いが止まらない。生前あたしにあれだけのことをしたあいつは今ここで無力にそして無様に埋まっているのだ。勝ったのは、あたし。負けたのは、あいつ。なんといい気味なんだろう!
あんまりにもおかしくてうれしくて思わず地面にしゃがみ込んで笑ってしまった。あははははは、とばかみたいな笑い声が溢れて溢れて止まらない。止める気もない。そうやってかなり長いこと笑ったところで、あたしはふと違和感に気づいた。
「……なにこれ」
頬をなまぬるい液体が伝う。雨かと思ったけど空はよく晴れていて(きっと空もあいつの死を祝福してるんだ!)雨など降るはずもなかった。慌てて眼に指を持っていくと、やっぱり流れているのはそこからで。つまりこれは
「……なんで、ないてんの。あたし」
あたしが泣いているということに他ならなかった。びっくりして涙をぬぐう。なんで死を祝福しにきて悼んで泣いてるんだ。ばかじゃあないの?あたしは、あいつのこと大嫌いだったのに。殺してやりたかったのに。どうして泣いてるんだ。いろんなことが頭のなかをぐるぐるする。さっきまではあいつの最悪なところしか思い出さなかったのに、なんでかしらないけれど今はあいつのちょっとだけあったいいところだけを思い出していた。そんな本当にかすかな思い出で感傷に浸るなんてばかみたいだ。なのに、あたしは今それを止められない。
「ば、かじゃないの……」
自分に向けて、とあいつに向けて。二重の意味を持たせるには最適な言葉を絞り出すように呟いてあたしはうなだれた。口元はまだ笑っているという感覚があるのに、ただ涙が止まらない。あたしは正真正銘の、ばかだ。
ああ、もう、そうだ。認めればいいんだろう!そうさ、なんだかんだであたしはきっと、結構あいつがすきだったのかもしれなかった。大嫌いで殺してやりたかったけれど、そのくせあたしは大好きであたしを見てほしかったのかもしれない。今となってはよくわかんないけど、きっとそうだ。あたしは、ばかだ。そして死んでしまったあいつもばかだ。墓の前で項垂れながら泣いて笑っているあたしは、きっと本当の気狂いに見えるのだろうと思った。ああ、そうだ。あたしは本当の気狂いだ。そんなことは、知っている。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!