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背の高い木々に囲まれた公園の片隅に一人の男が座っていた。
容姿は、整えれば人並みの所謂美形であるが、無造作に伸びた髪と髭、それから疲れきった表情からそれに気付くのはなかなか困難である。
男は生きているのか死んでいるのかわからないような虚ろな瞳で宙を追いながら、蒸し暑い夜の公園の片隅に放棄されたゴミ袋のようにたたずんでいて、そして時々何が可笑しいのか自嘲のような笑みを浮かべるのだった。
男は自殺をしようと考えていた。
高校を卒業してから十年間勤めていた仕事場の契約を突然切られたのだ。
再就職しようにも自分と同じ失業者は増えるばかりなのに、新しい仕事はどんどんと減るばかりである。
取りあえず実家に帰り、両親が経営している小さな食堂で手伝いでもしようと思った矢先、両親が急遽した。
運転していた父のよそ見運転が招いた不幸だった。
さらに、外食産業の衰退が原因で経営が危うかった食堂は借金まみれであることが両親の死後に発覚した。
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