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覚えているのは姉を激しくどなりつける父の声。
今まで見たことのない父の表情に、こっそりと盗み見していた僕は戸惑いを覚えた。
母は両手で顔を覆って小刻みに震えている。
声にならない悲鳴が顔を覆った手の隙間からもれていた。
二人の様子は僕が盗み見ているここからも十分に伺えたが、正座して俯いたままでいる姉の表情までは見ることができない。
「出ていけ」と父が震える声で黙っている姉に言い放つと母はついに声を出して泣き始めた。
激しい感情を爆発させないよう、精一杯押し殺しているつもりなのだろうが父の言葉は父の怒りと嫌悪と悲しみを裏に潜ませていた。
姉は考えていたのか、それから少し時間を置いてから立ち上がり、部屋を出て行った。
取り残された父と母は、もうなにも口にしなかった。
ただ目を閉じて、何事もなく幸せだった頃のことを思い出しているのだろう。
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