Sister

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 想像するだけでも吐き気がした。  今、僕の目の前にいるのは僕が長年慕ってきた姉ではない。  教師という名の皮を被った豚の手によって孕まされた豚である。  身にまとっている衣服の下に、あいつの子供がいるのかと思うと吐き気が、悪寒が、嫌悪が止まらない。  「あいつはきっと姉さんとその子供を助けてはくれないよ。教え子に手を出した挙げ句妊娠させただなんて、そんな事バレたらクビどころじゃ済まないから」  四角い闇の中で、僕と姉しかいないこの空間の中で、どす黒い感情は徐々に大きく、具体的になっていく。  「…じゃあ、一体どうしろって言うのよ…」  僕はすっかり女らしくなってしまった姉の手にそっと触れた。  その瞬間に、僕は醜い豚の如き感情を抱いている自分の姿を見た。  いや、弱りきった姉の弱さに漬け込むという点ではあの豚よりも醜いと言えるだろう。  僕の抱いていた感情はこんな歪で汚れた物ではなく、もっと澄んでいる物の筈だ。  しかし今、僕は自分が最も嫌悪する存在になろうとしている。  膨れ上がった嫉妬と破壊願望は僕の四肢に絡みつき、意志に反して動こうとしている。  それだけはしてはならない、と最後の理性が溢れ出す物をせき止めていた。  言うなれば、最後に残っていた物こそ僕が姉に抱いていた純粋な好意なるものだったのかもしれない。
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