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白く洗練された姉の手から汚れた僕の手を放し、僕はすぐに立ち上がり姉に背を向けた。
「……淳?」
汚れていたのは僕の方だ。
これ以上、姉の顔を見ている訳にはいかない。
純粋であるが故にただひたすらに相手を信じようとする姉を、このままでは僕が最も忌み嫌う行為で汚しかねなかったからだ。
「お腹の子……大事に育ててあげてね……」
力なくそう言い、僕は姉の部屋から逃げるように出て、そのまま自分の四角い檻の中に閉じこもった。
今になって、ようやく涙が溢れてきた。
大好きです、物心ついた時からあなたの事が大好きでした。
近くにいるからこそ、あなたに伝える事が出来ませんでした。
出来ることならあなたの悲しみも全て背負って一緒に生きていきたいのです。
ですが、それには僕は余りに弱い存在でした。
さようなら、僕の愛した人。
さようなら。
翌朝、家にはもう姉の姿は無かった。
残された四角い箱は、何故かとても狭く感じた。
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