戻らない日常~続く痛み~

5/10
1453人が本棚に入れています
本棚に追加
/155ページ
―鳳視点― 夕方になり、悠也さん達は帰って行った。 病室に残ったのは、私と龍兄だけ。 ――龍鵺が命懸けで何を守りたかったか、お前がその目で見てくるんだ―― お父さんから言われた言葉を思い出す。 私達家族には何があったか、全部知らされている。だからこその、言葉なんだよね、お父さん。 龍兄が命懸けで守った友達と日常。 それを見定めてくるのが私の役目。 ……本当はお父さんが一番来たかったくせに………無理して………。 私は龍兄の隣に歩み寄り、ベッドに腰を下ろす。 「本当に、龍兄のお友達は良い人ばかりだね………羨ましいかも」 答えが返ってこないのはわかる。理解しているけど、やっぱり話し掛けちゃう。 「魔法って凄いねぇ……龍兄も使えるんでしょ?ずばばばーっ、て!」 広い病室に、私だけの声が響く。 「良いなぁ……私もずばばばーっ、って使いたいなぁ………」 声は、無い。 「やっぱり楽しいんだよね、魔法って」 問い掛けても、返ってくるのは無音。 「……ねぇ……」 問い掛けても、 「ねぇってば…………」 問い掛けても、 「龍兄…………」 問い掛け続けても、 「龍……兄ぃ…………」 返って来ない、愛する兄の声。 視界が滲み、兄の顔が歪んで見えない。 「龍兄ってばぁ………!」 身体を揺らしても、 「起きてよぅ………!」 頬を抓っても、 「起きて……よ…………」 きっと水を掛けても起きないだろう。 体温は感じられるのに……いや、だからこそ辛いんだ。温かいから、辛い。龍兄を感じるからこんなにも辛いんだ。 「ふえぇ…………」 もう何もかも吐き出すように、大声で泣きたい気分だ。ポロポロと流すだけの涙じゃ、心はちっとも休まらない。 ――龍鵺が命懸けで何を守りたかったか、お前がその目で見てくるんだ―― もうやだよ……辛いよ、お父さん……… 「ひっく……もう………ひくっ………やだよ…………」 辛いんだよ。凄く辛い。 目の前に感じるのに、全く感じられないのが凄く辛い。 「龍兄ぃ………ひっく………」 こうして今日も、愛する兄の手を握りながら私は眠る。 いっそ、龍兄みたいに深く眠りたい。 そんな事も、考えながら…………  
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!