-情趣-

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 本の世界が中心だった。  リアルな世界は魔法は使えない。  闇に染まったマントをヒラヒラ靡かせて、宝石を盗む怪盗がいるわけでもない。  巨大な隕石が落ち地球が滅亡…なんてSFじみた事もない。  いきなり「君は国家組織に狙われている!」なんて事は俺の周りでは起こり得ない。  ただ、リアルな世界では味わえない出来事を想像するのが好きだった。別に現実が嫌いというわけではないが、本の中の方が面白みがある。  他人と深く関わる事に興味はない、最初はそう思っていた。彼と出会うまでは…  高校入学式後のオリエンテーション、新しい教室の窓から見える景色をぼんやり見ていた。青々しい木々と桜の向こうに特別校舎棟、図書室がある。あの場所に行って本を読み耽りたい気持ちに駆られる。  自己紹介カードは既に書き終わっている。小学生じゃあるまいし、こんな物を書かなくてもいいのでは?と冷めた気持ちが浮かぶが、どうでもいい。  隣の人も書き終わり、前の席の奴とカードを交換して談笑している。「名前は?」「どこ中?」「あ、このバンド俺も超好き!」明るい声、軽いノリ。そんな声が聞こえる。  1番関わりたくない、友人にはしたくないのは軽薄な人間。向こうも俺と友達になりたいとは思わないだろう。友人なら、なるべく機転が利く人がいい。周りの空気を読める人。あまり干渉されたくない。    やっとオリエンテーションから解放され、さっさと校舎を出る。  学校の近くの本屋に立ち寄り、吟味して一冊だけ文庫本を買い外に出た。  今日の春風は穏やかで陽射しも暖かい。歩く速さを緩め景色、風を楽しむ。  小さな公園に差し掛かり、ベンチに座らず真っ正面でしゃがみ込む人物に気付く。同じ制服、隣の席に座る人だと気付くのに数秒掛かった。  男に対して使うのはどうかと思うが容姿端麗、白皙な佳人。女性が好みそうな顔立ちだった。  太陽の光が彼の髪を黄金色に輝かし、緩い風が髪と戯れるように揺れた。  彼は1人で何をしているのか少し気になり、立ち止まる。  彼はベンチに堂々とど真ん中で寝ている、丸々と太った白い猫を見ていた。  猫も彼を欝陶しがるでもなく寝続けていた。
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