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苦手な数学を克服しようと努力する姿は見ていて面白い。
テスト勉強中、難問にぶちあたった時はムッと顰っ面を浮かべ、何とか自力で答えを導き出した時は嬉しそうに笑う。
どうしても自力で解けないと、チラリと俺の様子を上目遣いで窺う。「教えて」と言うタイミングを計っているようだった。
素直に言えばいいものの、そうしないのは俺が問題と戦っていたからだろう。視線に気付いて目が合うと即座にノートを差し出される。
紀はたまに遠慮がちになる。
よく紀は「眠い」「寒い」「お腹へった」「嬉しい、面白い」と思った事は素直に口にする。
季節の変わり目になると「暑い、夏だ!川行きたいなぁ」。秋になれば「焚火したい。さつまいも食べたいよね」。冬は「寒い、冬眠したい」と教室でもマフラーを着け防寒している。
だが、核心は言わない。本当に言いたい事は我慢する。
高校1年、夏休みから本屋でアルバイトを始める事になった。
夏休みに入る前に紀から花火大会の誘いを受けた。花火を見る瞳がどんなか気になったがバイトが入っている。
断ると少し食い下がられるが、お盆は閉店まで仕事が入っている。「無理」と断ると、紀はやむを得ないとばかりに「仕方ないかぁ」と頷いた。
暫く納得出来ず下唇を噛み締め目も合わさない。これが「拗ねる」といういい例。
別に来年でも行けるのに何故拗ねるのか理解に苦しむが、こんな顔を見れば大概の奴は「罪悪感」に苛むだろう。
夏休み間近、紀の大切な人が突然失った。
教室に事務員がやって来て担任が静かに該当者の名を呼ぶ少し前から紀の表情は曇りだしていた。既に嫌な予感をしていたのだろう。
呼び出された時の紀は顔面蒼白で崩れそうだった。
クラス中の生徒は戸惑い、ただならぬ事が起こったと感付く。
担任が呼び止めるのを無視し、紀は鞄を置きっぱなしに学校を出て行ってしまったらしい。
騒ぐ生徒に担任は自習を言い渡して教室を出て行った。担任がいない教室は騒がしく、先程の出来事で持ち切りだった。
何があったんだ?誰か事故ったとか?そういや、母親いないよね?まさか、また誰か死んだ?
廊下側に座る生徒が聞き耳を立てていたのか「ばあさんが死んだみたい」と本人がいないのをいい事に思慮に欠ける台詞が飛び交い、沸々と憤りが溢れた。
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