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綾女の記憶①
-母は、何でもやりたがり。
いろいろな趣味に手を出しては長続きした試しがない。
でも何かしらやっているから、いつも忙しい。
小さな子供でも、容赦なく留守番させた。
たとえ0歳児であっても。
-その頃、母は「普通自動車免許」を取得するために教習所に通っていた。
忙しさの合間をぬって通っていたため、夜になることもあった。
当然、子供連れで教習所に通えるわけがない。
今だったら、保育ルームくらいある教習所もあるらしいが。
ある日の夜。
綾女は3才だったが「夜」だということはなぜかハッキリ覚えている。
真文はまだ0才。
(この時点で読者は、この姉妹は「3才違いじゃねえのぉ?」という疑問というか、私の間違えの指摘をされるかもしれませんが、真文は早生まれで実質的には2才9ヶ月離れているのです)
たった二人の留守番。
母は夜、子供を置いていく時は寂しくないようにテレビを付けていく。
テレビが付いていれば、子供の寂しさとか心配とか吹っ飛んで意気揚々と出ていけるもんだと勘違いをしていたようだ。
でも、テレビ、壊れていた。
画面が映らない。音声だけ。
綾女は確かに記憶に残っている。
それは、多分「怖かった」からだと思う。
でも母には「怖い。留守番なんてイヤ!」とは一度も言った記憶がない。
それが「フツーの家庭」だと思っていたからだ。
母は綾女の時も真文の時も母乳が出なかった。
だから、粉ミルクで育てた。
その日、真文はよく泣いた。ずっと泣いていた。
いつもは母が寝かせてから出かけるから、こんなことは初めてで、綾女があやしても泣き続けていた。
綾女、3才の知恵を振り絞った。
「そっか。お腹が空いているんだ」
と思って、ミルクを作り始めた。
粉ミルクをスプーン何杯入れればいいのかわかっていたし、お湯も何CC入れればいいのかも知っていた。
相当頭の切れる3才児だったのだ。
母親がミルクを作る時に見ていただけなのに。
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