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子供の頃に見た大きな船。
幼い俺の心に焼きついている。
「竜一、どうだ~?
お父さんが設計した船だぞ~」
「すごーい!おっきいね!」
父さんの設計する船は、大きくて独特の模様が入っていた。
幼い俺には読めない漢字だった。
「あれ、なんて読むの?」
「あれは…『みなと』って書いてあってパパのお得意さんだよ。
社長さんから直々のお仕事だ!」
「なんだか、スゴいね!」
「これで苦しい生活ともサヨナラできる…もう…辛い思いをさせることもないんだよなぁ…」
父さんの目から、ひんやり冷たいものが俺の頬に落ちてきた。
その時の俺は、どうして父さんが泣いていたのか分からなかった。
でも、その涙を拭っていた。
「ありがとう」
「いやぁ、永瀬くん。ご苦労様」
「きよ…湊社長!この度は…」
「そんなにかしこまるな。
お互い高校からの付き合いだし、同じボート部だっただろう?
昔みたいに清志郎でいいよ。
その代わり私も洋一と呼ぶがね」
「しゃ…清志郎。ありがとう」
その時、湊清志郎という男に例えようのない不信感を抱いた。
子供ながら湊を警戒して隠れた。
「洋一の子供かな?」
「あっ…息子の竜一です。
ほら、竜一。挨拶をしなさい💦」
「…こんにちは…」
「可愛らしいなぁ!」
目を見れば分かるほど、その言葉には心が込もっていなかった。
この男は何を考えているのか…
それからしばらくして、いよいよ父さんの船をお披露目する日。
「いいかい、竜一。パパはえらい人たちに挨拶して来るから、
ここで大人しくしてるんだよ?」
「わかった」
「えらいね、竜一」
父さんは優しく笑って、俺の頭を撫でて舞台裏へ向かった。
しかし、それが俺が父さんを見た最後の姿になってしまった。
「パパ!パパ!しっかりして!」
「おい!息してねぇぞ!?」
「パパ…」
「洋一…!頼む…洋一を…っ」
その場の誰もが、溺れた父さんを心配していたにも関わらず…
俺が見た湊は口元を両手で押さえながら笑っている姿が見えた。
もしかして、あいつが…?
湊は父さんの葬式にも顔を出し、遺影を前にして泣いてみせた。
あれも全て演技だと思うと…
腹の底から怒りが込み上げた。
いつか殺してやりたい。
父さんの仇を討ちたいと思った。
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