第一章 ロイヤルミルクティーとスコーン

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「あの、その服素敵ですね」  ヒカリの後ろから声が掛かった。 「はいっ?」  驚いた拍子に、スコーンをゴクンと飲み下した。ヒカリの肩が、少し跳ね、間抜けな声が口をついて出た。振り返ると、ヒカリの後ろの席に若い男が座っており、椅子の背もたれに肘を着き、体をねじってヒカリを真っ直ぐに見ていた。ストライプのワイシャツとジーンズを着て、黒髪を短髪にした朴訥そうな青年だった。青年が再び口を開く。 「すいません、びっくりさせてしまって。でもいつもこの店に来てるみたいだから」  ヒカリは何も言わず青年を見つめ、この人と何処かで会った事があっただろうかと考えた。覚えが無い。いや、何処かで見た事がある顔なのかもしれなかったが、全く覚えていない。他人と比べて器量が突出して良いというわけでもなさそうだが、かといって他人に見下されるようでもない、実直そうな顔立ちの青年だった。ヒカリが沈黙している間に、訥々と青年が喋る。 「あの、僕も毎週此処に来てるんです。大抵いつもこの辺りの席に座ってて、貴方といつも近くの席にいたんです、僕。それで、いつも趣味の良い服来てくるなと思ってたんです」  低く落ち着いていて、聞いていて心地の良い声だった。だがそれが、逆にヒカリを落ち着かなくさせた。ヒカリは何も言わない。心の中に警戒心が生まれる。若い男は、苦手だ。 「あの…」  何も言わないヒカリに、青年は気まずくなってきたようだった。曇り始めた青年の表情を見て、ようやくヒカリは言った。 「私に、何か用があったんでしょうか?」
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