第一章 ロイヤルミルクティーとスコーン

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 ヒカリはピタリと動きを止めた。青年が何を言わんとしているのか計りかねた。同時に、週に一度の安らぎの時間に水を差されたと思い、苛立ちが鎌首をもたげた。 「私は、誰かに見られる事が嫌いです。見ず知らずの人にいきなり話し掛けられるのも」  ヒカリの言葉に、青年は返した。 「でも僕は、貴方に興味があります」 「ナンパですか?」 「そうかもしれません、貴方がそう感じるのなら。でも、自分はそういうつもりじゃありませんでした」  ヒカリと青年の視線がかち合った。ヒカリは、思わず俯いていた。青年の、探るような視線が怖かった。 「実は、僕はこのカフェ以外でも貴方を知っています」  ヒカリの脳天に痺れが走った。誰?と思った。見られるのは、嫌……、と、ヒカリは頭の痺れを疎ましく思いながら心の中で呟いた。 「実は僕、貴方と一緒の会社に勤めてるんですよ。貴方は知らないと思うんですけど」  ヒカリはそれを聞いて、自分の胸にナイフが突き付けられたような気がした。自分は仕事の人間関係から逃げてこのカフェに辿り着いたというのに。このカフェは心の拠り所なのに、何故よりによって仕事現場の人間が側にいるのだろう。急に、自分の逃げ場、もしくは居場所が消えていく感覚がヒカリを襲った。
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