第一章 ロイヤルミルクティーとスコーン

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 その日は抜けるような青空で、ヒカリは小さなバッグに財布だけを入れて街に出た。自分でも何処に向かうのか分からないまま、とにかく歩いた。そして時にバスに乗ったり、適当な場所で降りたりした。歩いたり公共機関を乗り降りしているうちに、ふと一つの看板に目が留まった。看板にはこう書かれていた。  『Library』  Library――つまり図書館。だがそのLibraryの外観は、まるで図書館には見えない。興味を引かれ、ヒカリはカフェ――Libraryに入ってみた。それがこのカフェとの出会いだった。 「いらっしゃいませ」  その瞬間の事を、今でもヒカリは鮮明に思い出せる。まるで太古の昔、虫を閉じ込め美しい石と化した琥珀のような空間。時が停止したかのような、不思議な雰囲気が建物の内部を支配していた。
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