第一章 ロイヤルミルクティーとスコーン

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 閉じ込められる、そう思った。ヒカリの心が、囚われた瞬間だった。 「お客様、空いているお席へどうぞ」  白いものが混じった髭を、上品に口元にたくわえたマスターがヒカリに言った。お客様と呼ばれ、ヒカリはマスターを見た。何かに誘われるように、一歩足を踏み出す。目に入ったのは、洋館にあるような、優しい光沢を放つ手摺りのついた階段だった。ヒカリはマスターに尋ねた。 「二階、あるんですか?」  にっこりとマスターは笑った。すると、降り積もる年齢の上に刻み込まれた顔の皺が、くっきりと目元に浮かんだ。 「ええ、ございますよ。二階のお席のほうでしたら、二つ空きがございます。今案内させますので」  マスターが言うと、カウンターの向こう側から若いウェイトレスが現れた。黒髪をお団子にまとめた、頬のふっくらとした女性だった。 「ご案内いたします。こちらへどうぞ」
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