第四章~君のいる日常~

3/13
前へ
/68ページ
次へ
イリヤから最低の烙印を押され、軽くへこみつつも、いつも通りに授業を受ける。 とはいえ、授業内容などは頭には入らない。 教卓で熱弁を振るう教師など、もはや目にも止めず、俺は窓の外に広がる青空へと視線をやっていた。 今朝の夢…。 あれはいったい、何だったのだろう? 細部は覚えていないけど、ただ―――哀しかった。 それだけが、妙に胸の奥底に澱のように溜まっている。 助けたかった一人を助ける為に、助けたかった大勢を切り捨てた誰か…。 それは、祖父さんとは真逆の正義の味方のあり方だ。 祖父さんは、全てを助けようと奮闘して……誰かは、一人を助けようと奔走した。 「――馬鹿野郎……!」 キツくシャーペンを握り締める。 だって腹が立つ。 夢の中で対峙した連中は、きっと事情を話せば協力してくれるような奴らだったに違いない。 だってのに、あの誰かは事情も話さずに連中と戦う道を選んだのだ。 巻き込みたくなかったのだろうが、いきなり敵対するよりは遥かに…。 「なんて…」 不器用な奴だ…。 底抜けに馬鹿で、阿呆みたいに不器用。 そのくせ、他人の手を借りずに全部独りで抱え込もうとする。 そんなの、いつかパンクするに決まってるのに…。 『ごめんね…』 あの時の哀しげな誰かの声が、頭から離れない。 あの時…“彼女”は、何を思ったのだろうか。 考えても、答えなんか出なかった…。 「シキ~♪」 本日最後の授業終了と共に、イリヤが俺の席の前に立つ。 その顔は、欲しかった玩具が目の前にある子供のそれだった。 「ん?」 「む~!レディが話しかけてるんだから、そういう反応は0点だよ」 「なんでさ?」 「なんでも!…まぁいいわ。それより、今日これから暇?」 「暇…のような、暇じゃないような」 「じゃあ遊びに行こっ!」 こいつは人の話を聞いてないのか? とはいえ、断る理由もない。 帰ったところで、やることなんかありゃしないのだから。 「わかった…で、どこ行くんだ?」 「新都に行こっ♪美味しい喫茶店があるらしいんだ」 「あいよ」 答えて、鞄を持つ。 まぁ、たまには遊びに行くのもいいだろう…。 その程度の気持ちだった。 この時、まさかあんな事が起きるとは夢想だにしていなかったのだから…。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

410人が本棚に入れています
本棚に追加