410人が本棚に入れています
本棚に追加
イリヤから最低の烙印を押され、軽くへこみつつも、いつも通りに授業を受ける。
とはいえ、授業内容などは頭には入らない。
教卓で熱弁を振るう教師など、もはや目にも止めず、俺は窓の外に広がる青空へと視線をやっていた。
今朝の夢…。
あれはいったい、何だったのだろう?
細部は覚えていないけど、ただ―――哀しかった。
それだけが、妙に胸の奥底に澱のように溜まっている。
助けたかった一人を助ける為に、助けたかった大勢を切り捨てた誰か…。
それは、祖父さんとは真逆の正義の味方のあり方だ。
祖父さんは、全てを助けようと奮闘して……誰かは、一人を助けようと奔走した。
「――馬鹿野郎……!」
キツくシャーペンを握り締める。
だって腹が立つ。
夢の中で対峙した連中は、きっと事情を話せば協力してくれるような奴らだったに違いない。
だってのに、あの誰かは事情も話さずに連中と戦う道を選んだのだ。
巻き込みたくなかったのだろうが、いきなり敵対するよりは遥かに…。
「なんて…」
不器用な奴だ…。
底抜けに馬鹿で、阿呆みたいに不器用。
そのくせ、他人の手を借りずに全部独りで抱え込もうとする。
そんなの、いつかパンクするに決まってるのに…。
『ごめんね…』
あの時の哀しげな誰かの声が、頭から離れない。
あの時…“彼女”は、何を思ったのだろうか。
考えても、答えなんか出なかった…。
「シキ~♪」
本日最後の授業終了と共に、イリヤが俺の席の前に立つ。
その顔は、欲しかった玩具が目の前にある子供のそれだった。
「ん?」
「む~!レディが話しかけてるんだから、そういう反応は0点だよ」
「なんでさ?」
「なんでも!…まぁいいわ。それより、今日これから暇?」
「暇…のような、暇じゃないような」
「じゃあ遊びに行こっ!」
こいつは人の話を聞いてないのか?
とはいえ、断る理由もない。
帰ったところで、やることなんかありゃしないのだから。
「わかった…で、どこ行くんだ?」
「新都に行こっ♪美味しい喫茶店があるらしいんだ」
「あいよ」
答えて、鞄を持つ。
まぁ、たまには遊びに行くのもいいだろう…。
その程度の気持ちだった。
この時、まさかあんな事が起きるとは夢想だにしていなかったのだから…。
最初のコメントを投稿しよう!