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「む~…!」
「そんなにむくれるなって」
「別にむくれてないわ!」
「さいですか…」
イリヤと新都に来て、早いもので既に3時間。
日の短くなった冬の空は、いつの間にやら太陽が姿を消し、薄暗くなった虚空には、淡い三日月が現れていた。
それはいい。
別に暗くなろうが、寒かろうが大した問題ではないのだ。
今一番の悩みの種は…イリヤなのだから。
「いい加減機嫌直せよ」
「だって店休日だよ!?私は楽しみにしてたのに~!」
駄々をこねる子供よろしく、その場で地団駄を踏むイリヤ…。
そういう理由だった。
イリヤがクラスメートの後藤くんから聞いた美味しい喫茶店ってのは、今日たまたま休みだったのだ。
代わりに適当な場所に入ったのだが、それもいけなかった…。
――まずかったらしいのだ。
天下のStarbucksがイリヤにとってはまずかったらしいのだ。
まぁ、言わせてもらうならレディはそんなはしたない動作はしないんじゃなかろーか?
とはいえ、今それを言うと更に問題が悪化するので黙っておくことにする。
「……で、これからどうす…」
「待って」
どうする?と聞こうとした刹那…。
今まで聞いたことのない冷たさで、イリヤがそう言い放った。
「……人払いの結界。範囲は…この場所を中心に1kmかしら?」
「ッ!?」
慌てて辺りを見渡せば……なるほど。
たしかに俺達の周りには誰一人として存在していなかった。
単に見えないだけではない。
この心の奥を冷やす静寂は間違いなく……真実動物の一匹すらいないことを意味していた。
「さっきからずっとつけて来てたみたいだけど……いい加減に出てきなさい」
その一言に戦慄した。
イリヤは、ずっと気付いていたというのか……誰かが狙っていた事を。
「流石…ですわね。今大会のアインツベルンマスター…」
「やっぱり、エーデルフェルトだったのね。それで、何かご用かしら?」
イリヤの声に反応して現れたのは、一人の少女だった。
美しい金の髪を靡かせ、青い衣服を身に纏ったその少女は……見た目俺達と同じ歳ぐらいだ。
いや、それよりエーデルフェルトだと?
それは、まさか…。
「私が用があるのは貴女ではなく、そこの男ですわ」
「俺…だと?」
やはり、祖母さんが言ってたエーデルフェルトだったらしい…。
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