第四章~君のいる日常~

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帰りの道すがら、イリヤは何も喋らない。 先ほどの笑顔も、今は忘れたか…その表情は険しく、何かを考えているようにも見えた。 とはいえ、俺も俺で今は他人を気遣ってやれる余裕はない。 痛覚の消失…。 歩いている感覚など、とうになく。 まるで他人の夢を覗いているかのように、それは現実味のない世界だった。 と、その時…。 「シキ」 小さな声で、隣を歩くイリヤが呼んだ。 返事は返さずに顔を向ける。 「今のシキは生きてるんだよね?」 「………あぁ」 返事に間があったのは、単に自分でもそれが分からなかったからだ。 たしかに、呼吸をして、今この場所に立っている、という意味では俺は生きてるだろう。 ただ生の実感がない。 自分という基盤が足元から崩れ去ったかのように、まるで現実味のない生。 そんな物は夢と何ら変わらない。 ……俺は、本当に生きているんだろうか? 「なら、どうやって生き返ったの?」 「分からない。気付いたら生き返ってた、としか言えないさ…」 そんな俺の曖昧な言葉に、そう…とだけ応えたイリヤは、その場でクルリと回り…先ほど浮かべていた笑顔を見せてくれた。 それから一瞬遅れて、自宅へ帰り着いたことに気付く。 「寄っていくか?」 「ううん。今日はもう帰るわ。また明日ね、シキ♪」 「…ああ、気を付けて帰れよ」 「はぁーい♪」 笑顔のまま、イリヤは去っていき……やがて見えなくなった。 それを見届けた後…。 「生きてるんだよね?……か」 そう呟き、俺は扉を潜った。その瞬間…。 「マスターッ!!」 魔王の如き様相を浮かべたアーチャーが、如何にもご立腹な様子で、ドカドカと近付いてきた。 その様子にたじろぎ、思わず逃げようとするが…。 俺の背後には、哀しきかな…ガタガタと音を立てて逃走を阻む引き戸君が鎮座していた。 「ちょッ!ま…!アーチャー!!何を…!」 「何を…じゃないよ!私がいない間に他のマスターと接触した上に、戦闘までして………それに」 そこまで言うと、アーチャーは言葉を区切り…俯いた。 その肩は、目に見える程に震えていた…。 「アーチャー……?」 「約束してくれる?次からは外に出るときは、私を連れて行くって…」 なぜ、そこまで彼女が恐れるのか。 なにが、彼女をそこまで駆り立てるのか…。
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