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――何かあったのか?
そう聞きたかった。
だけど、聞けなかった。
誰が聞けるだろうか?
その小さな背中を震わせ、口を真一文字に結んだまま、泣くのを我慢している子供のように立ち尽くす彼女に…。
一体、誰が立ち入った話を聞けるというのか。
「分かった。――約束する」
「ぇ?」
「これからはちゃんと気を付けるって。出かける時とかはちゃんと声かけるから」
だから結局。
俺が言ってやれるのは、こんな約束だけだった。
何てことはない。
いくらセイバーに鍛えられようが、俺なんて所詮は自分の身すら守れないただのガキだったと……そういう事なんだろう。
「本当…?約束できる?」
「――ああ。悔しいけど、今の俺じゃあサーヴァント相手に自分すら守れないみたいだし…」
「………うん」
「ま、よろしく頼むよアーチャー……いや、高町さんって方がいいか?」
それしか言えなかった。
他に色々と言いたいことはあったけど、今はこれだけで十分。
差し出した右手……少し遅れて、アーチャーも手を差し伸べてきたのだから…。
「……2人の時は“なのはさん”でいいよ。みんな、そう呼んでたから」
「了解。んじゃ、改めてよろしくな、なのはさん」
「うん♪」
笑顔。
それは本当に、菜の花のように穏やかな笑顔だった。
だが、それも一瞬。
アーチャー…なのはさんは少し考えるような仕草を見せた後…。
「あれ?なんで私の真名を知ってるの?」
「え……いや、何となく分かったというか…」
「何となく?」
「あぁ。後、バーサーカーとランサーの真名も何となく分かったんだけど…」
そう言った瞬間…。
「なんでそれもっと早く言わないの!?」
先ほどまでの上機嫌っぷりが嘘のように、アーチャーが再びまくし立て始めた。
サーヴァントの真名を知ってたら対策を立てられるとか、聖杯戦争がどんなものか分かってないとか…。
まぁ、お説教である。
結果として頂いた言葉はというと。
「少し……私とお散歩しようか?」
「は?」
「大丈夫、直撃は避けるから♪」
それは散歩とは言わないんじゃなかろーか…。
なんて疑問は口に出す事もなく。
俺はアーチャーにお散歩という名の特訓を施されたのだった。
翌日、俺がグロッキーだったのは言うまでもない………とほほ。
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