第五章~従者の存在価値~

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第五章~従者の存在価値~

「衛宮 色くん……か」 彼のいない部屋で独り、その名を呼んだ。 だが、その声に答える者はいない。 ……当然の事だ。 彼は今、前回の聖杯戦争に呼び出されたセイバーと道場で打ち合いをしているのだから…。 「大丈夫、かな…?」 それは、彼の体に起きた異変に対しての発言だ。 詳しくは分からないが、何か人として大事な物が欠落しているように感じた。 ハスは通っているが、サーヴァントである自分が分かるのはここまで…。 色くんに聞いてもはぐらかされるし…。 「どうしたものかなぁ…」 苦笑い混じりに、三度呟いた。 強情なところは私にそっくり…。 そして、だからこそ、ああいう子が折れやすいという事も理解しているつもりなんだけど…。 あぁ、竹刀の響きがここまで聞こえる。 後でマッサージでもしてあげようかな…。 そう考えて、私は笑いながら道場へと踵を返したのだった。 私のマスターがいる、道場へ…。 ………… ……… …… 「はぁぁぁッ!!」 セイバーと稽古を始める事、早2時間。 今までならば何でもない事だった打ち合いも、痛覚の失せた体では…。 踏み込み、セイバーの鳩尾目掛けて刺突を放つ…! だが、どうやら力み過ぎていたらしく…。 「っ…!?」 バランスを崩し、前のめりに倒れてしまった。 くそ…! これで今日8回目だぞ…!? 20年弱やってきた動作が何で出来ないんだ! 募るのはそんな苛立ちだけだ。 これじゃあ、アーチャーと戦うどころか、私生活すらもままならない。 そんな焦りを払拭するかのように、ぎこちなく立ち上がりセイバーと向かい合う――だが。 「……ここまでです、シキ」 「な…」 セイバーの宣言に、なんで…とは問えなかった。 ………理由ならば自分が誰よりも理解しているのだから。 「シキ……これは私の予想ですが、今の貴方には体の感覚がないのではないですか?」 「ッ!?」 セイバーの的確な指摘に、息を呑む。 「やはりですか。…しかし何故です?突然体の感覚がなくなるなど、本来有り得ないことです」 「それは……」 話していいのだろうか? 実は一度死んで、その生き返った代償に痛覚を失ったなど…。
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