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「何があったのですか…シキ」
「…………」
答えられない。
実は一度死んでるなんて、冗談でも笑えないじゃないか…。
俯いたと同時。
カタンと何かが落ちた音が道場に響き渡った。
どうやら、竹刀を手放していたらしい。
床に転がる竹刀を他人事のように眺めながら、ただ一言。
「祖父さん達には内緒にしててくれ…」
「………はい」
セイバーの頷きを確認して、何から話したものかと思案し始める。やがて…。
「エーデルフェルトだっけ?祖母さんの知り合い…」
まるで懺悔するかのように、セイバーに昨日の出来事を全て話した。
エーデルフェルトとそのサーヴァントに会い、無様に心臓を貫かれた事。
その後、気付いたら生き返っていた事。
生き返った代償に、体の感覚…痛覚を失ってしまった事……その全てを、セイバーに話した。
「…………」
セイバーは何も言わない。
サーヴァントを連れて歩かなかった不用心な俺を叱る事もなければ、同情もなかった。
道場を、沈黙だけが支配していた。
「……なぜ、ですか?」
「え?」
それは、未だかつて見た事のない…セイバーの弱さだったのかもしれない。
彼女は俯き、肩を震わせて問うた。
『なぜ』と…。
「なぜ貴方が聖杯戦争のマスターになど成らねばならないのですか…?魔術師として生きることもない…貴方が」
「セイバー…」
次の瞬間、セイバーが放った言葉は予想外だったと言っていい。
いや、むしろ俺の中にはそんな選択肢など、ありもしなかったのだから…。
「シキ……マスターの権利を破棄しなさい」
「な…!」
「貴方には夢があるでしょう。貴方が幼い頃から描き、温めてきた夢が…」
「……………」
「ならば、聖杯戦争など忘れなさい。魔術師としてではなく、エミヤ シキとしての幸せだけを追いなさい…」
「でもアーチャーが…!」
「貴方の戦う理由はなんですかッ!?」
「ッ!?」
それは…セイバーの悲痛な願いだった。
俺に危険な道を歩んで欲しくはないと…ただ自身の幸せのみを掴んで欲しいと。
母親としての、彼女の叫びだった。
「アーチャーの為に戦う?そんな物は戦う理由などではなく、単なる自己満足に過ぎません…」
「………俺は」
そうだ。
なぜ、俺は命を危険に晒してでも戦おうとしているのだろう?
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