第五章~従者の存在価値~

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「何があったのですか…シキ」 「…………」 答えられない。 実は一度死んでるなんて、冗談でも笑えないじゃないか…。 俯いたと同時。 カタンと何かが落ちた音が道場に響き渡った。 どうやら、竹刀を手放していたらしい。 床に転がる竹刀を他人事のように眺めながら、ただ一言。 「祖父さん達には内緒にしててくれ…」 「………はい」 セイバーの頷きを確認して、何から話したものかと思案し始める。やがて…。 「エーデルフェルトだっけ?祖母さんの知り合い…」 まるで懺悔するかのように、セイバーに昨日の出来事を全て話した。 エーデルフェルトとそのサーヴァントに会い、無様に心臓を貫かれた事。 その後、気付いたら生き返っていた事。 生き返った代償に、体の感覚…痛覚を失ってしまった事……その全てを、セイバーに話した。 「…………」 セイバーは何も言わない。 サーヴァントを連れて歩かなかった不用心な俺を叱る事もなければ、同情もなかった。 道場を、沈黙だけが支配していた。 「……なぜ、ですか?」 「え?」 それは、未だかつて見た事のない…セイバーの弱さだったのかもしれない。 彼女は俯き、肩を震わせて問うた。 『なぜ』と…。 「なぜ貴方が聖杯戦争のマスターになど成らねばならないのですか…?魔術師として生きることもない…貴方が」 「セイバー…」 次の瞬間、セイバーが放った言葉は予想外だったと言っていい。 いや、むしろ俺の中にはそんな選択肢など、ありもしなかったのだから…。 「シキ……マスターの権利を破棄しなさい」 「な…!」 「貴方には夢があるでしょう。貴方が幼い頃から描き、温めてきた夢が…」 「……………」 「ならば、聖杯戦争など忘れなさい。魔術師としてではなく、エミヤ シキとしての幸せだけを追いなさい…」 「でもアーチャーが…!」 「貴方の戦う理由はなんですかッ!?」 「ッ!?」 それは…セイバーの悲痛な願いだった。 俺に危険な道を歩んで欲しくはないと…ただ自身の幸せのみを掴んで欲しいと。 母親としての、彼女の叫びだった。 「アーチャーの為に戦う?そんな物は戦う理由などではなく、単なる自己満足に過ぎません…」 「………俺は」 そうだ。 なぜ、俺は命を危険に晒してでも戦おうとしているのだろう?
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