第五章~従者の存在価値~

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よく分からない。 なぜ戦うのか。 何の為に戦うのか。 誰が為に戦うのか。 何を求めて戦うのか。 あらゆる願いを叶える聖杯。 それが欲しいかと問われても答えはNoだ。 だってそれじゃあ意味がない。 願いや夢ってのは自分だけの力で手に入れるからこそ輝く物のはず。 そりゃ世の中にはどんなに頑張っても叶わない夢ってのはある。 祖父さんが掲げる正義の味方なんてのは、その代表だ。 それでも、そうだとしても…。 叶わないと知ってなお足掻く姿に、人々は胸打たれるんだと思う。 幼い俺が、真っ直ぐに夢を追う祖父さんに憧れたように…。 今の俺は、誰かの目標となれるように、自分が目指す夢へと走っているのだから。 「シキ…貴方の戦う理由は何ですか…?」 セイバーから投げられる同じ問い。 口を噤む俺だったが…。 「残念だけど…彼には私のマスターをしてもらわなきゃいけない」 「アーチャー…」 突然現れたアーチャーがセイバーの願いを両断した。 「それはおかしい。聖杯戦争ではサーヴァントもマスターを変える事が出来るはずです」 「……そうだね。でも、それは色くんが令呪を破棄すれば、だよ」 令呪……この痣を破棄すれば、俺は魔術師なんかとは無縁の一般人になる。 と、ここで2人の瞳が俺を捉えている事に気付いた。 「シキ、令呪を破棄しなさい。アーチャーには酷ですが、彼女には新しいマスターを探してもらうべきです」 「私は色くんにマスターをやってもらいたいな」 「……何でだ?」 「色くんがマスターとしては十分な力があるから…かな。君と同等のマスターを探すには少し時間がかかり過ぎるよ」 ……分からない。 聖杯戦争と自分の夢……果たして、俺にはどちらが重いのか。 まるで、痛覚と一緒に心までなくなったみたいだった…。 「俺は……」 どうしたいのか。 どうすればいいのか。 悩んでも答えは見えなかった。 だから俺は結局…。 「…少し考えさせてくれ」 そう言って問題を先延ばしにすることしか、出来なかったんだ。
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