第五章~従者の存在価値~

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祖父さんの発言の真意が分からず、押し黙る。 祖父さんは今何と言った? アーチャーが好きか、と言ったのだ。 なぜそんな事を聞くのか…。 ――分からない。 祖父さんは祖父さんで、混乱する俺をニヤニヤと見てくるだけで補足はない。 「嫌いなのか?」 「いや、好きとか嫌いとか別に…」 そもそも相手はサーヴァントだ。 人間と同じ外見、心を持とうとも、それは俺のような規格内の存在では断じてない。 そう、自分に言い聞かせる。 形のない感覚が、明確な想いにならぬように…と。 「正直言うとな、儂はセイバーが好きだったよ。初めて見たときに一目惚れしてしまってな」 「……それ、祖母さんに知れたらマズいんじゃないか?」 「まぁ、な……凛には言うなよ?」 と、悪戯をする子供のように無邪気な笑顔を浮かべ、祖父さんが人差し指を自分の口の前に立てた。 だが、それも一瞬。 祖父さんは遠くを見ながら一言…。 「だから、儂は聖杯戦争に参加した。セイバーの傷つく姿を見たくなかったからだ」 「………じゃあ」 「セイバーも本当はわかってるんじゃないか?……ただ、納得が出来ないだけだろう」 だから、お前がアーチャーの為に戦うというのなら、それは立派な戦う理由だと…祖父さんの目が告げていた。 「ただし、アーチャーの為と言うのなら途中で裏切るな。アーチャーを……何より自分自身を」 「……出来るかな、俺…」 「出来ないのなら、聖杯戦争からは手を引け。まぁ、お前なら出来るさ……お前は儂の自慢の孫だからな」 そうだ。 何を弱気になっていたのか。 俺は誰だ? そう、衛宮 色だ。 誰もが憧れる正義の味方……衛宮 士郎の孫じゃないか。 なら、やっていける。 幾度とこの体が砕けようとも、固い剣を継承した心は折れないのだから。 「なんだ…それだけのことじゃないか」 瞬間、肩が軽くなったように感じた。 ならもう大丈夫だろう。 俺は往く道を定めた。故に、あとは示すだけだ。 「色、これを」 「……デュランダル…」 祖父さんが投影した聖剣が、俺の手に渡る。 なんて重いんだろう。 心持ち一つで、武器の重みがこんなにも違う…。 「裏切るな。繕うな。欺くな。ただ前だけを見続けて、どこまでも真っ直ぐに行け」 「……ああ」 祖父さんの言葉を胸に、俺は道場へと向かった。
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