第五章~従者の存在価値~

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「……………」 漆黒に包まれた夜の道場。 そこにはいつもの活気はなく、まるで空間そのものが眠っているようでもあった。 迷わずに、一歩踏み出す――刹那。 「それ以上は踏み込まないことです」 「セイバー…」 暗闇の奥から黄金を翳した王が現れた。 その身体には白銀の甲冑を纏い、その手には輝きを放ち始める最強の聖剣が握られている。 それはつまり…。 「シキ。貴方が聖杯戦争に関わると言うなら、私は貴方を再起不能にします」 言い放ち、エクスカリバーの切っ先を向けてくるセイバーの目には、一点の曇りもない。 彼女は本気なのだ。 ここで俺が進退を誤れば、確実にセイバーは俺の四肢を両断するだろう。 ――それがどうした。 彼女が言うように、アーチャーの為の戦いなど何の意味もないかもしれない。 ――だが、それでも。 アーチャーの為に何かしてやりたいと思ったのだ。 それが恋というものなのか、愛と呼ぶものなのかは分からない。 それは見栄っ張りで、歪で、明確な形のない信念かもしれない。 だがそれでも正しいと感じたのだ――故に。 「―――来い、セイバー…」 迷う事など何もない…! 手に握られたデュランダルの切っ先を、セイバーへと向ける。 勝てるだろうか? 感覚の失せたこの体で。 眼前に立つのは常勝の王。 如何な術を持ってしても、勝機は僅かにあるかないかだ。 「ふ…いいでしょう。ならば、貴方のその思い上がり……この私が直々に砕いて差し上げる」 聖剣の担い手は僅かに口角を上げ、その剣を音もなく構える。 エクスカリバー…。 騎士王にのみ許された黄金の剣。 それを前にして。 俺もまた、デュランダルを構えた。
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