第五章~従者の存在価値~

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互いに構えたまま、無言で対峙する。 その中で。 「……引くなら、今ですよシキ」 セイバーからの最終勧告に総身が粟立った。 だが逃げる訳にはいかない。 祖父さんが俺に言った言葉……それは今まさに、この胸に。 無言でデュランダルを横に薙ぐ。 “かかってこい”と。 もはや幾百幾万の言葉は不要。 その姿が、セイバーの瞳にはどう映ったかは分からない。 ただ、彼女は一度だけ瞳を閉じて…。 「行きます……シキッ!!」 疾風の如き速さで踏み込んできた――! 2m程の距離を一息で詰め、放たれたのは刺突。 間髪入れずに、デュランダルを振り上げる。 ――剣戟の響き。 聖剣は聖剣によって弾かれ、切っ先を空へ向ける。 「ハァァァァァッ!!」 すぐさま放つ連刺。 喉、心臓、腹の三点に狙いを定め、聖剣を突き出した…! だが、その程度の反撃は読まれていたか…。 「甘い――ッ!」 振り落とされた聖剣によっていとも容易く防がれた。 だけではない。 そのまま、刀身は俺を両断せんと跳ね上がってくる――! まずい。 まずいまずいまずい……!避けろ! 全力で後ろに飛び退き、距離を離す。 だが避けきれなかったらしい。 服は前が裂け、身体も多少斬られたようだった。 痛覚がないのが幸いした。 今後の動きに支障は来さないだろう。 だが、デメリットもある。 先ほどの一連の攻防でもそうだったが、痛覚がないせいで、動きにズレが起きているのだ。 ……それは、瞬秒程度の遅れ。 だがそれも、今のような戦闘では命取りとなりかねない。 予想以上に厳しいな…。 どうしたものか――そう他人ごとみたいに思案しながらも、セイバーの剣舞に聖剣を合わせる。 それは既に本能で動いているのと変わらない。 死にそうになる自分を守る為、必死に体が反応しているだけ。 だが結局それもジリ貧。 やおら今まで一定のスピードで迫ってきたセイバーの剣が……ここに来て一気に数倍――!? 「くぁっ…!」 それを避けられたのは運以外の何物でもなかった。 たまたま足が滑り自重を支えきれなくなった片足が体を下に落としただけ。 どうやら、未だ運には見放されていないらしいが…。
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