第五章~従者の存在価値~

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「……そんな様で私を認めさせようなど…考えが甘い」 その声で、視線をセイバーへと向けた。 やはり彼女は涼しげなまま、聖剣を自身の前に突き立てている。 ――立て。 「ぁ…ぐ……ぅ!」 動いているのか…どうやら俺の身体は未だ戦えるらしい。 ゆっくりと視線の高さが上がっていく。 「……まだやると?武器がなければ何も出来ない貴方が」 「一々、うる…せぇんだよ…!」 「この状況でそれだけ言えるなら上等でしょうね……ですが、もう終わりです」 言いながら、聖剣を握り直して騎士王が近付いてくる。 ……立て。 立って戦え。 「が…!うぐ…っ!」 「驚いた。まさか本当にその身体で立つなど」 その身体?それはどういう意味なのか…。 それを知るために、一度自身の身体に目をやった。 そして…。 ――笑いたくなった。 右腕は逆に曲がり、赤い肉がはみ出し……肩口もいつの間にか斬り裂かれ真っ赤に染まっていた。 …なんだ。 気付かなかっただけで俺の身体は既に死に体らしい。 「……どうします?令呪を破棄するなら、これ以上は危害を加えませんが」 「……………黙ってろ」 「――仕方ありませんね。では、貴方の手足を奪うとしましょう」 冷たく言い放つセイバー。 だったら、なぜ……そんな辛そうな声をしているのか。 なぜ聖剣を持つ手が震えているのか。 なぜ今にも吐きそうな酷く歪んだ顔で、涙を流しているのか。 その瞬間、全てに合点がいった。 ――あぁ、そうか。 セイバーも本当はこんなこと、やりたくないんだろ? ただ俺が言っても聞かない性格だから、こんな事をやってるだけで…。 「ごめんな……セイバー…」 「ッ!?」 溢れた涙で視界がぼやける。 自分が情けなくて涙が出た。 セイバーがこんなになるまで背負い込んでいたのに、俺は自分のことしか見えていなかったのだ。 ……セイバーを見ろ。 あんな小さな背中で、彼女は背負い込んでしまっていた。――否、背負い込ませてしまったじゃないか…。 それに気付いて、どうしようもなく死にたくなる。 むしろ令呪を破棄したくすらなった。
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