第六章~自身の在り方~

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残った右目だけで、セイバーを捉える。 ――まただ。 また貴女は泣きそうな顔をしている。 何ら罪を持たない貴女が泣く必要など、どこにもありはしないのに…。 それでも、彼女は目に涙を湛えて……それでも涙は流すまいとこらえていた。 「―――――」 何事かをセイバーが呟く。 だがそれは静謐な夜へと吸い込まれて…。 結局、彼女は剣を構えた。 それと同時に徐々に掌に現れる重く固い感触。 刃である。 この全てを飲み込む闇夜において尚、その白銀の煌めきを強めていく刃はやがて不確かな形から形成され…。 「真打…」 その真名を以て。 「――童子斬安綱」 確固たる姿を現した…! 掌に形成されたのは、一振りの日本刀だった。 ――誰が知ろう。 この刃こそ日本が世界に誇る安綱……日本三大悪妖怪が一人、酒呑童子の首を落とし、天下五剣にその名を連ねる最強の妖刀だった。 最強の鬼首を斬り落とした安綱は、聖剣と斬り合ったとて刃こぼれなどしない。 「――ッ!!」 右手で安綱を握り締め、駆けた。 既に出血量は致死量に届きかけている。 俺には時間がないのだ。 故に勝負をつけるなら早急に。 俺の命が尽きる前に終わらせなくてはならない。 もっとも、如何なる手段を用いたところで、彼女には届かないと結論は出ている訳だが…。 袈裟に振り落とす。 だが、弾かれた。 泣き顔を湛えた騎士王の剣が、間髪入れずに返ってくる。 「ッ!…この」 紙一重で避け、剣先が俺の左頬を掠めた。 だが、それは布石だったらしい。 やり過ごしたと思った剣は、すぐさま俺の首を狙い迫ってくる――! 「づぅッ…!」 後先を一切考えない横跳躍。 バランスを崩し、転がるように地面を滑り、なんとか体勢を立て直したが……三度降りかかる聖剣。 ――防ぐしかない。 そう判断し、安綱を構えた。 剣戟の音と同時に鍔迫り合う剣と刃。 防ぐのは成功した。だが……右手親指が折れたらしい。 目の前には、歪に折れ曲がった指が映った。 構わず、押し返す。 「く…!」 吹き飛ばされたセイバーは、勢いを殺しきれずにたたらを踏んだが、やがて停止した。 だがそれも一瞬。 疾風怒涛の踏み込みで、セイバーが再び間合いに入ってくる――!
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